幼いころは父とたびたびオルムを登った。 「ねぇねぇパパ~あのさ~、こんなに大きな墓には誰が寝ているの?」と私は尋ねた。 「ここにはたくさんの心が眠っているんだ。もともとは非常に小さな砂の城だったが、人たちが心をあまりにも捨てていったので、積もりに積もってこんなに大きな墓になったのさ。」と父が言った。 「どんな心を捨てて行ったの?」と聞き返した。 「誰かを憎む気持ち、誰かを愛する心」と父が答えた。 「ああ~、そんな心が育って砂の城に芽が出てきたんだね」、「まあ、そんなわけさ。」
済州のインターラーケン
西帰浦市の中山間道路を走っていて、右に視線を動かしたら、オルム一つがある。口数が少なく、危うく気づかないところだった。もっと詳しく見たい気持ちで、車窓を開けたら、色はすぐに鮮明になる。緩やかな緑の丘を目に合わせて上がったら、オルムの果てには裾が引っかかったまま留まっている雲がある。その雲は、空とオルムの境界をかなり散らしていた。濁っている間を出入りするのは風だけ。見たところ、スイスのインターラーケン地方と全く似た姿をしている。特に風が風景をつくることもそうだ。
分かってみれば実は
特にきれいなところがないものが好きだ。済州には小さくて、大きいオルムが四百余個もあるそうだが、百薬のオルムに格別な心を置くのは、やはり知らず知らず可愛らしい、そのしみじみとしたところがあるからだろう。その高さは132mに過ぎず、20分ほどの短い時間で頂上に到達できるところ。ヒキオコシ、スイカズラ、トックリイチゴ、クルマバナ、ナギナタコウジュ、ヨモギ、イノコヅチなど、ここで自生している薬草は、約100種類にも達する。北側に傾斜面は浅くへこんだ姿をしており、オルムの頂上には粘りある空気のこもった噴火口がある。クムブリ(=噴火口)を足元にして立って見る風景は、城山日出峰と牛島(ウド)、そして小さくて大きなオルムの姿が盛り込まれる。