数年前までは、地図にも表示されなかったところだった。たまにカジメを取り上げるために寄る村の住民と、道に間違えて入った旅行者だけが、この海の唯一の主であるはず。多くの関心を受ける今になったのは当然のことかもしれない。愛されるものにはそれなりの理由がある。
くすんだ緑と青、その間どこかの色を持ち上げる。真っ白なパレットは、洗い立てのようにさっぱりとした感じ。絵具を溶かして濡れた筆で潰したら、余計なもののない冬の空のような清らかな色が薄く散らばった。どんなものとも交じり合わない清潔さが月停里のある海であることを連想させる。 「月が宿る所」として付けられた名前「月停」。一目で見え渡るが、一胸に抱きしめられない姿だ。それで、月さえもここの情趣に心を奪われる。その心は、明日も明後日も明々後日も、ずっと見たい気持ちがある。